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学園奉仕活動ー序ー VS ZERO

超自然的ーENDー

「ふん……。神、か……」

爺はフェンスに頭を付け深々と煙を吐き出し

「その後は? すぐ帰っちゃったわけ?」

視線は遠くの空に向けたままそう問うてくる。

「ああ。爺さんにもよろしくってのと次はもっと尊えってさ」

もちろん怒ってる感じではなく、優しい笑顔のままそう言って金鉢乃大魅神様は帰っていった。

「そうか。いやぁ……しっかし、あれだな。百ちゃんに神が憑いてるつぁ……大魅神のやつマジなのかねぇ」

こいつ……人の話ってものが基本的に聞こえないのか?

「まあ、神か近い存在かわからんらしいけどな。ていうか、早速呼び捨てするな」

金鉢乃大魅神様の中では要注意人物に認定されてるのがわからないのか……? 今こうしてることも全て見られてるかもしんねえのに。

「同じ神ならもう少し特定できないもんかねぇ? ったく、使えねえなちくしょうめ」

ええっ、まだ言うのかよこいつっ……。耳ってもの付いてないのか? それか怖いもの知らず? それとも金鉢乃大魅神様に恨みでもあんの?

「爺さん。まじで止めておけよ。善意で見てくれたんだからさ」

本来なら懇願しても目の前に現れてくれることなんて無い神様が現れたという、それだけでも凄いことなのに邪を払おうとまでしてくれたんだ。流石の俺でも凄いことだと思うし、感謝の念しかない。

「そりゃね、凄いことだと思うよ? でもさ、一体じゃなくて複数とか言われたんだろ? 更にややこしいこと言いやがってという気分と反抗期みたいな?」

「もう、やめておきなさい爺!! 相手は神だぞ!? ここは反抗せず従え! 抗うな!」

まあ、とは一喝しても、確かにそりゃややこしくはなってるとは思わなくも無い。だが、こうも言っていたんだ……。


“憑いてるといっても悪いもんでもなさそうだから、無理に取り払う必要はない”


正直、なんだか憑いてるだのなんだの気味は悪いが、やばいものならあんなに穏やかな顔で言うわけないし何かしら取り払おうとしてくれる筈。それに……。



“恩恵というかおまじないみたいなもんで、懸かっているからといって百やんに何か悪いことがあるわけではない”


とも言っていたから、然程気にする必要もないと思う。ていうか、てっきり肩に数人の何者かが憑いてるのかと思ってたがそうではないらしいので安心したといったところだ。

「いやぁ、わかってはいるんだけどねぇ。どうも、人ならざるものを相手にしてるとまず疑いとひねくれの精神が先に出るというかさ。煙吐き掛けただけて、おい。みたいな」

「お前っ、まだ言いやがるのか―――」

もう、ぶん殴ってやる! そう思い拳を作っただけだった筈なのだが。

「がぁっ……」

何故だか、俺の右は既に爺の左頬にめり込んでいた。

「な、なんでっ……」

人を殴っておいてびっくりするというのは凄く変だとは思うが、自分の意思よりも速く出た右手を驚きと共に凝視せずにはいられない。

「な、殴ったね……。百ちゃんには殴られないと思ったのにっ……」

爺は「いい加減黙れ」と俺が殴っただけだと思っているようだが……。

「違う……。これは俺じゃないぞ、爺ぃ……」

震える右手を、爺の頬からゆっくりと引く。

「いや、どっから見てもお前の右手じゃないか。何が違うって―――」

言いながら、爺は俺の右手を見て目を見開く。まあ、それはそうだろさ……。なんたって、今の俺の右手は……。

「ゴッドハンドだぁあああああああああ!!」

そう。俺の右手は今まさに金色の光を放っていた。

「どうしてくれんだよおぉおおおおいっ! てめえがあんまりうるさいから金鉢乃大魅神様が俺の身体使い始めたじゃねえか!!」

意図せず神の右ってなんか嬉しくねえよ、おい!!

「ふっ、やるじゃないか。怒りがお前を目覚めさせたんだな。これでようやく、お前もスーパーノヤサイ人の仲間入り―――」

「ば!か!か! ほんと馬鹿かお前っ! 怒ってるのは俺じゃない! 金鉢乃大魅神様だ!」

どこまで自分の非礼を見ねえんだこいつは! ぶっちゃけ、金鉢乃大魅神様殺っちまえと心の底から願ってたりすんだぞ!

「まあ、でも、あれだ。俺には泣き崩し改心は効かないんだけどな」

と、爺は平然とそう言い、煙草に火を点けようとするが、俺の右手―――即ち、金鉢乃大魅神様はそれを許さない。

「ふっぐぅううううっ……!」

素早く首を掴み握る。そう、普通に首を絞めている。

「馬鹿! 早く謝れ爺! 効かないことぐらい金鉢乃大魅神様もお見通しだ! 殺されるぞマジで!」

俺の意思も少しばかり混ざってるのか混ざってないのか、そこのところはわからないが、右手にはどんどん力が込められいく。

「ごぉっ……ごめんなっ……ざいっ……」

当たり前だが、こんなので金鉢乃大魅神様も俺も許すわけが無い。

「駄目だ! もっと大きな声で言え爺! この馬鹿ちんが!」

意識までもが若干、金鉢乃大魅神様とシンクロしつつあるのかもしれないが気にしない。これだけの事を言ったんだこいつはっ。ちゃんと謝るまで絞めは緩めんぞっ。

「さあ、精一杯大きな声で謝れ! 誠意を見せろ! ワンモア爺っ!!」

こんなもんで気を失うお前じゃないはずだ! 頑張って頑張って頑張るんだ!

「ごぉっ……ごぉめっ……」

「駄目だ駄目だ駄目だ! そんなんじゃ全っ然、駄目っ! もっと絞り出すんだ!」

お前ならできる!

「ごぉおおおっ……ごめっ……ごめんなざぁあああああああああいっ!!」

よっしゃ、よくやった!

「やればできるんだ! お前ならできるんだよ爺! ほんとよくやったぞ!!」

首絞めを解き、がっしりと抱きしめる。

「よくやったっ。ほんと、よくやったぞっ爺ぃっ。お前は日本の宝石っ。世界の希望だっ……」


目から止め処なく流れるこれは涙かっ……いや、熱き勲章だっ!

「ごほっ……ごふっ。いや、ごほごほっ、暑いっ……く、苦しいから。はなれ……ろっ」

「いいっ! いいんだ! よくやたんだよお前はっ!」

出来たら褒める! 当たり前のことだ! 見てる方だってつらかったんだからっ!

「ちがっ……ごほごほっ……い、いやっ……本当に苦しいから離れろって!!」

「お、俺を弾き飛ばす……? いいやっ、それもいいだろう! 恥ずかしがりやなのもわかってるさ!」

なんたって、俺とお前は同じなのだからっ!!

「よ、寄るなっ! な、なんか知らねえけどなっ……うぜえっごほっ、ぞっ。そ、それに……も、百ちゃんの右手に憑いてるの本当にっ……金鉢乃大魅神様……か?」

「な、なに言ってるんだ爺! そうに決まってるだろう! 俺はいつでも熱く指導するんだよ!」

ここまで一緒にやってきてどうして、俺を疑えるんだ! 私は今凄く悲しい!!

「熱いのは熱いけど違う熱さなんだよ……今のお前はっ……。苦しいいんだ、よ……。それに指導……ってなんだ?」

違う熱さ……? 苦しい……? 熱苦しい……?

「ちょっと心を強く持てよ、百ちゃん。お前の右手は本当に金鉢乃大魅神様か? 冷静に感じ取ってみろ」

冷静に、感じ取る……? 爺は何を言ってるんだ? 俺の右手は無礼の数々に怒り燃える男の……。



熱き魂の日本男児……。





「ああ……どうしよう……爺。これは金鉢乃大魅神様じゃない……」




この熱さは……地獄の炎並みに熱く、よく見たら赤々と燃えるこの右手は……。





「インフェルノ・オブ・テニス・・ウーシュ・オーカマーツゾウの右手だ……」




聞いたこともない名前だ……。でも何故かわかるんだ。右手がそうだと訴えてくるから……。



「ま、まあ、なんだ……。普通、向こうから接触してくることってないしさ。……い、いんじゃないか?」

「い、いいのか……? ていうか、なんの意味があるんだろ……この手」

召喚者は妙に熱くなるということはわかるんだが、肝心の効果が、何も効かない爺では知りうることができない。

「ウーシュ・オーカマーツゾウ……聞いた事ないけど、さっきのから推測するに、人のやる気を出させる神とかなんじゃね?」

「だよな。それしかないよな。なんか妙に熱かった、というか右手すっごい熱いしな、今も」

当たり前なんだけどな。手首から下は轟々と燃えてるんだから。ただ、不思議と火傷や服が燃え出すなんてことはないみたいで一安心だ。


「で、これ、どうしたらいい?」

熱いのは変わりないわけで顔を近づけてよく観察しようとは思わないし、事が落ち着いた今、早く消えて欲しい気持ちしかないんだけど……。

「脱いでぽいっ、で、いいんじゃないか?」

「いや、よくねえよっ。仮に俺がそうして、ウーシュ・オーカマーツゾウが降臨したらあんた止めれるのか?」

火に油どころか油に水状態で陥り、ずっと憑依されたままになるに決まってる。

「じゃあ、どうすんのよ。今の百ちゃん俺以上に目立ってるぜ?」

うん……。確かにこのままじゃ授業どころかクラスに戻ることすら出来ない。

「いや、単純な話だな……」


予期せぬ召喚とはいえ、借りたらお礼を言って返す。ただそれだけのことだ。……多分。……なら、やるべきことは一つなわけで……。

「ウーシュ・オーカマーツゾウ様っ」

地獄の炎みたいだけど上にいるんだよな……? とか、一瞬疑問に思いつつも、空に向かって右手を伸ばす。


「ありがとうございました!」

借りてる間、本人どうなってるんだろう? やっぱり右手だけ無いのかな?……えっ、そうだとしたら怖いな。つうか痛そう……。とか、色々考えながらも空に向かって大きな声で叫ぶ。

「もう大丈夫です! お返しいたしますっ!」

頼むっ、これで消えてっ……。あとはそう願うのみだ。

「そんなんで消えるのかねぇ。つうか、聞こえてるのかねぇ」

爺は傍らでそんなことを言いやがるが、俺にはわかる。ウーシュ・オーカマーツゾウ様は俺の声を聞いている。そうじゃなきゃ、爺の無礼から現れたりしない。それに……。


“うんっ。そうだ! お礼を言う! 当たり前のことなんだ!”


ウーシュ・オーカマーツゾウ様だと思われる声ではっきりと返答が聞こえるんだ。


「なんも起きねえけど?」

ただ、鼻くそをほじりながらつまんなさそうにしている爺の様子から、この声は俺にしか聞こえていないのがわかる。

“いいぞ! 君は出来る子だ! もうそれは返さなくていい! 私の代わりに皆のやる気を出させていくんだ!”

「えぇええええええっ……!」

お、思いのほか気に入られてるっ!?

「い、いや、それはっ、ありがたいんですがそれはできません! も、申し訳ないというか、ごめんなさい!」

四六時中燃えた右手で生活とかやばすぎるって!


“申し訳なく思わなくていいんだ! 君にはその資格がある!”


要らないっ! その資格要らない!!

「ありがたき幸せではありますがっ、貰う事はできません! その時その時貸して頂ければそれでっ!」


頼むぅ! これ以上意味不明なめんどくささはやめてくれぇ!


“控えめだな! でもわかった! 君がそれでいいのならそうしよう! 必要なときは遠慮せずに言ってくれ! すぐに貸してあげよう! なんなら私自ら出向こう!”

「ありがとうございます! 是非そうさせていただきます!」

出向くとかとんでもないし、借りることも無いと思うけど、なんとかわかってくれたみたいでよかった……。

“では鍛錬を怠るなんじゃないぞ!”


なんのだよ……。そう口にしたい気持ちをぐっと堪え、空に向かって両手で大きく手を振っていると、初めは左右に揺られ荒ぶっていた右手の炎もだんだんと弱まっていき

「落ち着いたか」

途中から静観していた爺が背後でそう声を掛けてきた時には元の自分の右手に戻っていた。

「はぁぁぁぁぁ……」

意図せずに大きなため息を吐いてしまう。なんだかわからないが、凄い疲労感だ……。

「借りることはまず無いと思うんだけどさ……。一回借りるだけで、あんなにも大きな声で気を使わないといけないとかしんどすぎるよな……」

火傷したわけではなく、自分の手にも間違いは無いはずなんだが、なんか違和感がするので右手を擦っていると

「え? なにが? どうしたって?」

何故……という言葉の頻度が最近急上昇だと個人的に思ってしまうのだが……“何故”か状況を読み込めてないといった感じで爺がそう問うてきやがった。

「いや、なんでわからないんだよ。急に理解力ゼロか、お前」

ウーシュ・オーカマーツゾウ様の声が聞こえていなかったとはいえ、これでもかと言うほどにわかりやすい一連の出来事だった筈だ。ほんとふざけすぎだ。こいつの辞書の中に真面目という言葉がないのか。たまんねえなおい。

「ん~……爺的にはさ、百ちゃんが何かの脅迫観念に囚われおかしくなったのかと」

「いや、お前なに見てたの!? いや、まじで!」

確かに右手的にな話すると脅迫に似たものを感じたが、違う。それはある意味での話で、普通に見たら「ああ~右手返すのに必死なのね」とかって見えるもんだ。絶対とは言いきれないけど、ほぼ絶対くらいには言いきれる。

「まあ、そんなことはどうでもいいんだけどね。ところで……」

「いや、どうでもよくな―――」

「前髪ぱっつん達どうなったの? 上がってこねえじゃん」

「え、あっ……そういえばそうだな」

確かに右手どうこうってのは今はどうでもいいな……。




「奴ら、どうなったんだろ……?」




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