“おはようございます!今日もはりきって街で見つけたトレンドをご紹介いたしますっ”
「……ゃっぷ……とっで……」
「ぁぃ……」
いくら早く寝ても、朝のテンションの低さと声の小ささは変わりない……。これも一族の血なんだろうか……。
“あ、あの子も腰から下げてますね~。あ、あの隣の子もっ。いや~人気なのは本当のようですっ”
「…………」
「…………」
無言でパンをかじり、適当に回した番組をぼーっと眺めるのも変わりない。ただ、変わったところを上げるとすれば、目玉焼きからスクランブルエッグに変わったところだろうか……。
“昨日は黒髪ぱっつんをお伝えしたと思うんですが、なんとっ、これは黒髪ぱっつんにしてこれを下げると可愛さ倍になっちゃうんですっ”
「この……ぉねえさん……かわぃぃ……」
「ぁぁ……だな……」
うっとりしながら低くて痰が絡んだ小さな声で言うのはどうかと思うが、それには同意だ……。何を紹介しようとこの女性アナウンサーが可愛いんだ……。
“やっぱぁ~、夜道とかも危ないじゃないですかぁ~?これを持ってると、護身にもなるしぃ~可愛さも倍になるみたいなぁ~”
インタビューする相手が腹立つ系のブスなのは意図してやってるのか……? つうか、昨日も出てなかったか? こいつ……。
「ぉれも……やろうかな……」
「…………」
爺はこのブスに感化されてるのか……?それも謎だ。
“きゃー危ないっ。でも負けませんよっ。えいっ”
「たゅんたゆんだぁ……かわぃぃ……」
「だな……かわぃくてぇ……きょにゅ……は、いい」
“はぁはぁっ。いやぁ~これは運動不足解消にももってこいですっ”
「むねは……ゅらしたままでな……やせちゃ……だめ……」
「だな……」
“そして何より楽しいっ。皆さんも是非っ、この“スポーツくない”をやってみてはいかがでしょうかっ”
「ぃぃな……やろうかな……」
「面白そうだ……―――って! なんだって!?」
スポーツくないっ!? なんだそれはっ!!
「おい、起きろ爺ぃ! なんだか分からないが凄く嫌な予感がするっ!!」
これはもしや、また混姫が何かしらの術的なもので流行らしているんじゃないのか!?
「嫌な予感……? 何が?」
ようやく爺の目にも色が戻ったが、頭はボケ散らかしているようだ。これはいかん!
「何がじゃねぇ! これもまた混姫の仕業じゃないのか!? スポーツくないって始めて聞いた単語だぞ!」
普通に見てたけどおかしい事だらけだ! 若者で腰からくないをぶら下げてる奴なんか見たことねぇんだよっ!!
「初めて聞いたんだろ? てことは、彼女のトレンド紹介が成功したってことじゃねえか? なにか問題か?」
ん……? ああ……確かにそうだよな。皆知らないからこそTVで紹介するんだもんな。
「それに、流石に学園にくない持ってくる奴は居ないだろ? だーいじょうぶだってぇ~」
爺はそう言うと、食後の煙草に火を点け、目を細めてゆっくりと細い煙を吐き出し窓の外を眺める。
「そ、そうだよな。まあ、仮に持ってきていたとしても俺達には関係ないしな」
今日は放課後までは平和な日になることを願うのみだ。
というか、平和でいろよ日にち野郎。