「ほんとにいらぬのじゃな?」
「いらん……」
あんまりにも褒め称え強請ってくるので、もう一本モリモリゲンキチャンを買ってやったのだが、先ほどからしきりに問うてくる。正直、若干うんざりしていて、買ってやらなければよかったんじゃいかと思ってしまうくらいだ。
「後で一口とかいってもやらぬからな」
「いらんってば……」
混ちゃんの口には超絶合ったんだろうけど、俺の口には合わん。超絶合わん。あんなもんもう死ぬまで、いや、死んでも供え物にはいらん。
「お主も変な奴じゃのぉ~。こんな美味しいものをまずいだのいらないだの」
いや、おかしいのは間違いなく混ちゃんだ……。だが、ここでまた何かを言えば、無理やりにでも飲まされそうになるかもしれないので、煙草に火を点けると共に無視する。
「ふぅ~……」
あぁ……そういや、なんかごたごたしてて忘れてたけど、混ちゃんは何ゆえ俺の隣に来たんだろう。考えなしに出てきたと取れる発言はしていたが……まさか、ほんとに理由がないってのも考えにくい。
「なあ、混ちゃん。なんで俺の所に現れ―――」
問おうとしたその時
“……まるすーぱぁすたぁーーーっ!”
また、あの下手糞な歌の様なものが聞こえてきた。なんなんだ一体……。
「下手糞じゃのぅ」
混ちゃんも当然聞こえたようで、クスクスと小さな笑い声を漏らす。
「どっから聞こえてるんだ?」
色んな方向へ顔を向け探す。
「あっちか……いや、こっち……か?」
だが、中庭は文字通り学園の中、即ち、一般棟と特殊棟が建つ間、コの字の真ん中に居るようなもんなので、音は通り易く、それ故反響してどこから聞こえてくるのか中々に特定しにくい。
「どこで聞こえておるのかのぉ~。ヒントは屋上じゃ」
小悪魔のように『ふふっ』なんて笑いながら混ちゃんが唐突にそんなことを言う。
「いや、ヒントどころか、答え言ってるぞ混ちゃん」
屋上は屋上しかないし、一般か特殊かっていう二分の一で非常に分かりやすい。
「なっ、あ……ああっ!」
今気づいたって遅いっつうの―――
「って、ちょっと待てお前。なんで知ってるんだ?」
まさかこいつが関与して……。
「なんで知ってるって、そりゃ当たり前だわのぉ~」
混ちゃんはあっさりそう言うと、モリモリゲンキチャンを一口飲み
“あちが術をかけたのじゃからの”
口の端をつり上げそう言った。