白を基調とし外観から既に清潔感が溢れる鬼我島学園。
それは昇降口へと足を踏み入れても変わらず、むしろ、より一層清潔であり高級感を感じさせてくれるに違いない。
磨き上げられた真っ白な床に鏡面かと思わせる程に光り輝く下駄箱群。
隅々まで清掃が行き届いた広大なこのフロアは昇降口というよりも一流ホテルのロビーの様である。
そして、角を曲がるとそこは、どこまでも続くかのような長くて光り輝く廊下。
天国へと繋がっているのではと錯覚させられそうな階段。
どちらも魅力的であり、そのまま進むか上へと向かうか、非常に悩まざるを得ない。
廊下と階段、普段悩まないであろうものを天秤へかけ視線を彷徨わせていると、更なる魅力という刺客がやってくる。
そう、それは……。
中庭だと思われる扉をその左側に見つけてしまうではないか。
これはいけないと、視線を戻すと、更なる扉があるのを発見してしまう。
主張自体は他のそれと比べ非常に小さいが、それ故に他のそれとは比べ物になら無いくらいに興味を引かれるのだ。
階段の下にあたるあの扉。
あそこには一体何があるというのだろうか……。
「うわ、ちょ、なんだいっ? なんだかヌルッとしたよっ?」
「え? ヌルッと? なんですか―――って、これですかっ! うわぁっ、本当にヌルッとするこの床っ!」
目の前でロピアンと寝子が二人して床を触りながら騒ぐ。
「…………」
なんていうか、正直うるさい。
「ワックスかい? ワックスが僕らをあれなのかい? 陰謀かいっ?」
何がどう陰謀やねん。あほか。
「陰謀なんですかっ? これはヌルっと陰謀なんですか? 僕があまりにも昼寝するからっ?」
なんでお前の昼寝と結びつくねん。ほんま、あほちゃうかこいつら。
「いやっ、大丈夫だよ、大西君っ。こっちの床ならっ。詰めて座れば大丈夫―――じゃないっ! お尻がやられたぁ!!」
「お、お尻がやられたっ!? ロピアン先輩のお尻がワックスまみれ……だとっ……―――いやだぁー! 僕はまだ死にたくなーーーい! ばあばー! 田間(たま)ちゃーーーん!!」
…………。
「くそ、これはっ……僕のお尻はもうワックスペインっ!!」
っ…………。
「いたぁっ」
「じゃかあしいわあほっ! さっきから黙って見てたら、ほんまにっ」
乗り出した身を引き、隣に散らばっていた雑巾の一つをロピアンに放り投げてやる。
「拭けば終いやろが。何を慌てとんねん」
ワックスくらいそらあるし、こぼれたりもするっちゅうねん。
なんせここは……。
“一階の階段下のあそこなんやからな”
「そ、そう、だね。どうしたんだろうね、僕。久々だからテンション上がっちゃのかな」
「でしょうね。僕も感化されたでござるにゃんにゃん」
“てへっ”とでも言いたげにテレながら、二人は床を拭く。
「まあ、確かにほんま久々やわな……」
なんかキャラ変わっとる気すらするもんな。そんだけ三人で会うのは久々や。
「いや、ちゃうな……」
むしろ、この三人で目的持って集まるのなんて始めてちゃうか?
しかも、一階の階段下のあそこにぎゅうぎゅう詰めでなんか。
「ふぅ……ところで……どうしてこんなとこに集まったんだい?」
拭き終わった雑巾を渡そうとしながらロピアンは聞いてくる。
「そういや、まだなんも話してなかったな」
二人も少しばかりは思ってそうやから、話さんでもわかるかと思ってたけどな……やっぱり、ここはちゃんと話しといたほうがええか。
「こんなところですから、秘密の話ではありそうですよね」
寝子も拭き終わった雑巾を渡そうとしながらそう言うので……。
「いや、それはいらんから床において」
二人の雑巾を持つ手を押し返し俺は言った。
「それはな、百太郎のことや」