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学園奉仕活動ー序ー VS Two

鬼と動物の行方

後日、Mからの連絡で我々取材班は、Mが指定してきたある場所へと向かっていた。

「愛してるよーーーっ!!」

指定場所についてみると、Mは空に向かって愛を叫んでいた。

「ちょっ、なんやんねん。な、なんで居んねん、お前ら」

動揺を隠し切れずそんなことを言うMだが、我々はMに呼ばれたわけであり、聞かれても答えに困るしかない。


「着たなら、着たって、あるやろほらっ。ら、ラッパ鳴らすとかっ。あの、は、腹痛の薬的なっ」

特定されないように、目立たず来いと言ったのはお前じゃないか、M。

「ほんまにぃ。油断も隙もないわっ」

黙って聞いていると腹が立ってきそうなので、ここについて訊ねると、Mは。

「見ての通り。空き地さ」

確かにここは、雑草の一つも生えていない広大な空き地ではある。だが、山の中にありながら、重機など入った形跡も無く、ぽっかりとこの場所だけ空き地になっているのは不自然な印象を受ける。

「おかしいでしょ?」

Mは我々の気持ちを悟ったかのように、そう問うと、歩き始める。

「まあ、空き地と言ってもさ。実はクレーターの様に中心地点に向かって、少し窪んでるんだよ」

確かに、歩いてみると、Mの言うことはなんとなく理解できる気がする。真っ直ぐに見晴らしていたつもりだったが、歩くことによってどうも中心がずれてくるのがわかる。

「ここは鬼と動物達の最後の地だからね」

Mは切なさのこもったような声でそう言うと……。

「い゛っんっ」

小石で足を挫く。

「ったぁ……。このクソ石がぁっ!」


Mは挫いた原因だろう石を掴むと、中心地点へ向かっておもいきり投げた。
神聖な場所であるはずなのだが……大丈夫なのかM。

「はぁ……こういう……はぁはぁ……時はさっ……。一緒に投げようぜぇっ!」

嫌に決まってるだろ、M。我々は新型の銀河系携帯ではない。

「モモ太郎が神様によってここに来たことは話したと思うけどさ」

急な切り替えに戸惑う我々だったが、聞き逃さないよう、Mの言葉に耳を傾けた。

「鬼と動物たちはさ、逆に神に連れて行かれたんだよ」

Mはそう言うと中心地点に立ち、空を見上げる。

「キンジロウ、クアルノスカ、セインタノス、キンボッキ、シア……」

まるで、Mが名を連ねたことに呼応するかのよう、強めな風が吹く。

「五色の鬼の王の名前であり、鬼我島を見守る五大神の名前でもあるんだ」

Mは風に身を任せるように両手を広げ、目を閉じる。

「ほんと、勝手な話だ……。でも、彼らは違った形で行き続けてるからな。これでよかった……と、言えるのか。俺にはわからないな」

どういうことなのかわからないで居ると、Mは徐に地面に胡坐をかいて座り、語り始めた。
















神―――五大神、と言っても、それは下界の我々人間が彼らを尊い、崇める為に使っている言葉というだけで、彼らは特に偉ぶるわけでもなく単に仲の良い5人の集いのようなものであったそうで、同時に……。

「“暇をもてあました日々”……を過ごしていたそうです」

日々と言っても、人間の数日や長くて一ヶ月、数年という単位では勿論ないようですが、兎に角、彼らは暇だった。

そこで、良くも悪くもアイデアマンであるセインタノスが言います。

「“自分達の世界を作ってみないか?”……と」

その、セインタノスの言葉に、当然、異を唱えるものや渋るものが出ました。
クアルノスカや名前によらず真面目だったそうなキンボッキです。
ただ、結局は多数決という3対2の戦いで負け、彼等五大神の世界創造計画で話が纏まりました。

「だが、しかし……」

世界創造計画はすぐに破綻してしまいます。一人の裏切……など争いでの破綻ではなく、ただ、凄まじく時間が掛かり、めんどくさかったのです。人間で例えるなら、無知で農業を始め、大豊作と大出荷するようなものだったのです。

「でも、彼らは諦めない」

既にある世界。そこに自分達が手を加えた生命の生き場を作ろうという代案で進めていきました。

「それが、鬼我島」

年月を掛け、出張った岩が波に削られ続いていただろう大陸が沈み等して、この鬼を模ったような島が出来たと、我々の歴史ではそうなっていますが、実は違う。自然が作り上げたと思っていた、この島は―――この島になる前の大陸を襲っていた天変地異は、全て五大神である、暇をもてあました人智を超えた存在たちが意図的に起こしていたのです。


「そして、この島の上で生きている我々人間や動物や植物に虫に至るまで、小さなものから大きなものまで、その全ても、彼らが生み出しました。勿論……鬼達も」

ただ、鬼というのは彼らも予想外だった。

元々彼等の予定というのは、自分達が作った、愛おしい我が子の様なこの世界へ、己も住まい、生きとし生けるものを見守るつもりだったのです。だが、それは叶わなかった。己の持つ力が強大過ぎたのです。一人でも強大。それが五つとなると、せっかく育った島を粉々に破壊しかねなかったのです。

「だから、せめてもの気持ちで自分達のコピーを……と、各々が作った」

だが、またもや、己の強大さを怨むことになる。
どういうわけか、人間とは違う肌の色と角等の特徴を持った種が生まれてしまったのです。

「そう……。鬼が生まれた」


それには、彼等は……。







爆笑したらしい……。

肌の色は人間と違えど、彼らからすれば割とそっくりな小さき生命が生まれたことにより、その日は一晩中酒を酌み交わし見守っていたそうです。

「しかも、キンジロウ、クアルノスカ、セインタノス、キンボッキ、シア。記憶が刷り込まれていたのか、長となる鬼はいずれも彼等の名を名乗ったのです」

ただ……同じように愛情を注いでいた人間や動物達と争いを始めた。
流石にそのことには彼らも胸を痛める日々だった。だが、介入はしなかった―――いや、出来なかった。どちらも愛しており、どちらかに肩入れし消滅させるなんて出来なかったのです。


「だが、固唾を呑んで見守るのにも疲れ、彼等は極限まで力を押さえて、彼等の場所と鬼我島を行き来できる小さな存在を作り上げ、島へと放ちます」


皆に注目されること無いよう、全ての生命が眠りに付くであろう、深夜に。



「彼らからすれば、小さな世界、小さな生命達……」



だが、島に住む者たちからすれば、それは、巨大な隕石が山へと向かって落ちるのと同じこと。
最も古い鬼我島の歴史を書した、門次郎(もんじろう)の書記にそれは記されています。

“眩い光が島全体を覆い、昼間かと思うほどだった。やがて、目が慣れたとき、それは鬼尻の山へと落ちた”


「そう、それは物凄いバレており、物凄い事として書されていた」


だが、彼等は当然そのことに気づいておらず、その小さきモノ―――愛する我が娘へ、思いを託し、憂いを払った気分だった。


「そう。その娘というのが、モモ太郎をこの鬼我島へ連れて来た神様―――ロルノア」

本当は、キンジロウの“ロ”クアルノスカの“ル”セインタノスの“ノ”キンボッキの“ッ”シアの“ア”で“ロルノッア”だそうですが、キンボッキ以外はロルノアと呼び、ロルノア本人もロルノアだと名乗っているそうです。


「本来なら鬼を退治するであろうモモ太郎が病に伏したことにより、ロルノアは苦肉の策として別次元のモモ太郎をこちらへと呼び寄せ……。後は皆さんが知る歴史となるわけです」



そして、ここからが本題とも言うべき、戦後の鬼と動物達の行方。

「まず、五大神。彼等はこの鬼我島を本当に愛していたということが、鍵になります」

自分達で作り上げた島、生命。愛情があるのは当然のこと。

「だが……」


“愛しすぎた”


「愛しすぎたが故に、彼等の意の外、つまり、思いもしなかった恩恵がこの島に宿ってしまったのです」

それは、島に住まうもの達には良いことではあるのですが、必ずしも良いことではありませんでした。

「他と比べ、寿命が長く健康でいられ、幸福である。それは良いことであり、何度か、島全体がパワースポットの様にメディアでも取り上げられたことがあるのも事実です。そうなれば、当然、他所に住まう方達も鬼我島へと移住したいと考えるようになります。だが……」

住まいを構える事が出来ない。何かしら不幸に見舞われ、移り住む事が出来ないのです。その証拠に、人口もメディアが取り上げる前と後で変わっていません。

「現時点での鬼我島の人口は2万5201人といわれています。島としては少なくは無い数字といえますが、これは、数年単位でも減ることも無ければ増えることもないのです。むしろ、ある時から固定されている」

そう。鬼人動戦争後から変わっていないのです。
と言っても、戦争時や、現代でも歳を取り亡くなる方も居り、減ることはあります。

「だが、その分、新たな生命の誕生もある」

上限は決まっているかの如く、2万5201人で固定されています。それは、彼等が思ってなのか、無意識にそうさせているのかはわかりません。だが……。


「これ以上犠牲者は出したくない……。そう思っているのは確かであり、保守しているのかもしれません」



戦後、鬼と進化した動物達をある一箇所―――。



「そう。まさに、ここに集め……」


昇華―――彼女はそう表現していた。今の状態から更に良い状態になると、そう言いたかったんだろう。


「クレーターの様になったのはその証拠。今も雑草の一つも生えず、決して消えることなく“傷跡”として残っている」

勿論、この島にいる全ての動物達、鬼達がここへ集まった訳ではない。だが、全てが消滅した。一人分、もしくは数人分の跡なんかはこうして残ることも無く、消えてしまってる。

「彼等は何故こんな―――生かして、殺したのか……」

その場にいて、その瞬間を見たモモ太郎は、それはもう怒り狂っていた……そうだ。
ロルノアに切りかかりもした。

「だが、その時語られたことで、すぐに信じれたわけではないが、勢いは収まった」


今度は生き易い形で転生してくるのだと。彼女は言った。


「生き易い形。明言こそしなかったが、人間として生まれてくるのだと……取れる発言でした」


“輪廻転生”“生まれ変わり”人間の間で生まれ、人間の間で言われている言葉。
神という言葉も、五大神という言葉さえも、人間の間で生まれた言葉。

「だが、彼女―――彼等は、人間が作り出したそれらをやってみせ、振舞いをも見せた」

こうして、鬼と動物達は元の姿を変え、今は人間としてこの鬼我島で暮らしているのかもしれません。

「完全に信じたら馬鹿だ。でも、信じて生きていくのも面白いもんだと思う」




言って、Mは付けていたサングラスと髪の毛に手を掛け、取り払うと、ゆっくりと顔を上げる。













「お前次第だけどな」






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