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学園奉仕活動ー序ー VS FOUR

Day 2-2

そして、今日も駅までの道を早歩きで進む。そう……安定のギリギリ遅刻だ。

「まあ、こんな日もあるって」

「そうじゃ。バッドデイってやつじゃの」

「いいや、違うっ。お前らのせいだ! お前らが居る間はデフォルトに遅刻だ絶対っ!!」

遅刻理由は、またしても、朝うん……。今日は爺の番ではあったが、紙が無いと大騒ぎするので、買いに行き、その後更に小指を戸にぶつけて混姫がしくしく泣くという微妙な事件もあったので、結局二人の共犯。……本当、嫌になるやつ等だ。

「いや、百ちゃん、それはないぜ。俺たちのせいにされても、自然現象とちょっとした不幸だし。しょうがないことだろ」

「そうじゃ。バットデイってやつじゃの」

「いや、うるせえわっ。そうだとしても、何故、毎日毎日出る前に色々やらかすんだよっ」

学園まで、どんだけゆっくり行っても約10分くらいで着く距離なのに、こんな毎日遅刻ギリギリってかなりやばいぞ。

「ほぉほぉ~ん。百ちゃん、そんなこと言ってるけど、少し前まで遅刻常習犯だったんだろぉ~ん? 俺、じろさんから聞いて全部知ってるんだぞ、あぁ~ん?」

「そ、それは……まあ……」

「知ってるんじゃぞぉ~。あぁ~ん?」

くそ、余計な事言いやがって、あのクソオヤジ……。

「いや、でも、だからといって、遅刻を正当化するように今言うお前らが間違ってるだろ」

俺が、遅刻を気にするようになったのは、むしろいい事の筈。やっぱり、爺たちが間違ってるのは間違いない。

「それは、なんか、その……すいませんでした」

「じゃのぅ……」

「素直かっ!」

なにか言えって訳じゃないが、なんか調子狂うわっ。……なんなんだいったい。

「馬鹿、素直に決まってんだろっ! 死ねっ!!」

「そうじゃ、死ねお主っ!!」

「感情にも素直すぎんだろ! 口悪いぞっ!」

なんて、暴言の吐合をしてキンジロウ公園の前を通ったとき……。

「あっ……」

こんな時間に、ましてや通学路では行き過ぎなこの公園に居るはずのない人物がベンチに座っているのを見かけ、俺たちは歩を止めた。

「なにやってんだ……?」

俺の疑問に、爺と混姫も首を傾げる。

「中島ちゃん……だよな?」

「そうじゃのう。あの目立つ金色は奴で間違いのぅて」

放っておくのは流石に、目も合ってるし血も涙も無さ過ぎるので、三人で公園内へと入り、中島が座るベンチへ近づいていく事にする。

「なにやってるんだ? サボり?」

「中島ちゃん。場所は考えた方がいいぜぇ」

「じゃのう。お主ただでさえ目立つしのぉ」

いつも通りな感じで声を掛けたと思うのだが……。

「っ…………」

中島はスッと腰を上げ……。

「…………」

何も答えないまま、ただ、下を向いて突っ立っている。

「お、おい、どうした?」

「…………」

更に声を掛けても、中島はなんの反応も示さず、下を向いたまま。

「お~い、中島ちゃん?」

「……黙れ」

「え、だま……れ?」

「…………」

爺の心にヒビが入ったのは間違いないと思うが、それ以上は何も答えない。

「お前、どうしたんだ? 腹痛とか?」

「…………」

正直、俺も黙れと言われたらどうしようかと思ってはいたが、中島は何も答えなかった。

「ふむ……」

すると、顎に手をやり、ジッと中島を睨んでいた混姫が口を開き言った。

「こやつ、正気じゃないのぉ」

緊迫した雰囲気ではなく、お茶でも啜ってるかのように、のほほんとだ……。

「そうか。で、正気じゃないって、どういうことだよ」

まあ、混姫らしいっちゃらしいし、緊迫した雰囲気ってのは俺たちは似合わないだろうから、気にせず混姫へと問う。

「うむ。こやつ、何故だかは“あち”も“モモ太郎”も分からぬが、いき過ぎて歪んだ恋心に支配されておるぞ」

う~ん……。頭、痛くなってきたな……。

「どうして、聞いてもいないのに、“己”と“爺”を強調して言うんだろう。知ってるんだよな?」

「お、愚か者がっ! 分からぬと言っとろうがっ!!」

「はい、アウトー。感情的になったらアウトよー。さあ、言え」

「ぬぬぅ……ふ、不覚じゃ……」

混姫はがっくりと肩を落とすと、観念した様子で語り始めた。

「昨日のことじゃ……。お主が黒髪の馬鹿女を家まで送ってるときじゃ……」







あちとモモ太郎はお主の家へと帰って寛いでおった……。


『ゲームも対戦できるようなのねえし、暇だな~この家』

『そうじゃのぉ~。いっそ燃やすかえ?』

『いやいや、それは流石に大罪もんだろ。怖い事言うんじゃないぞ、混ちゃん』

『ふむ。それもそうじゃの~』

とな、共に寝転がりながら話しておると、あちのぽっけからの、“例のアレ”が転がり落ちてるのをモモ太郎が、見つけたのじゃ。

『なに、そのキモイボールっ!?』

『うぬ? キモイボールとな?』

『それだよ、それっ。混ちゃんの腰あたり落ちてる』

『おお、これかえ?』

お主と同じように、モモ太郎にも説明してやり渡してやった。

『へぇ~。これがねぇ~』

『見たまんまじゃが、それに支配された人間は人によっては凄くおぞましくなるからのぉ』

『だろうな~。というか、これ、割れたら本人へ戻ってくわけ?』

『うむ。まあ、基本的にはの。ただ、それは分からぬ』

あの小娘の黒髪馬鹿女に対する愛は熟成され歪みきっておったからの、もしかすると、自らの意思を持ち、宿主を変える恐れもあったんじゃ。だから、くれぐれも割るなとモモ太郎へも注意をしておった。

『そうか……。じゃあ、返すな』

矢先じゃ。寝転がっておる故、顔に当たったら大惨事じゃというに、モモ太郎は投げ返しよった。

『お、お主っ。危ないじゃろがっ!』

あち、あったまきて、モモ太郎へ投げ返してやった。

『お、いいね。爆弾の投げ合い並にスリルあるじゃん。これ』

そこからじゃ、上へと投げては片方がキャッチする。寝転がりキャッチボールの開始じゃ。






「んでの……まあ、後は想像通り……じゃ」

「…………」

こ、言葉が出ない……。

「ま、まあ、さ。黒いキモイ奴が丁度、学園の方まで飛んでったのは、俺たちも追って確認したのよ」

「だろうな……。上で見たよ、多分」

中島が……だけどな。

「うむ。見失って、まさかとは思ったがのぉ……」

と、混姫が中島へと視線を向ける。

「こやつから、“アレ”と同じ気配をビンビン丸じゃの」

混姫はだからどうと言うこともないと言う様に、由加の時と同じように掌を向ける。

「ま、本人ではないから順応できず、上手い事声も出せぬようじゃ。容易き事よ」

そうか、じゃあ、由加の時よりもっと楽なんだな。

「なら、さっさと開放してやってくれ」

と、混姫に頼んだ瞬間。

「あまい……ですわ……」

中島が、そう言って顔を上げ。

「うぬぅっ?」

混姫が驚きの声を上げる。

「ちょ、ちょっと待つのじゃ、お主っ」

そんな言葉聞くはず無く、中島は素早い動きで混姫との距離を詰める。

「危ない混ちゃんっ!」

爺が助けに入るが……。

「うがぁっ……!」

「うぬぉっ……!」

間に入った爺もろとも、混姫は派手にぶっ飛んでいく。

「お、おい……まじかよ……」

いくら、距離を詰めた勢いのまま繰り出された正拳突きとはいえ、ありえない威力だ……。

「百太郎様……」

中島はぶっ倒れている爺と混姫を追撃することなく、砂埃に撒かれながら突っ立ち、顔だけを向けてくる。

「私の願いは、ただ一つでございますわ」

「ね、ねが、い……?」

ま、まじか……。由加の“アレ”が中島に入ったとしたら、そりゃ、願いはただ一つな筈……。

「鬼白お姉様に近づかない事……。ですわ」

「あぁ……やっぱり……」

「もし、守れないようでしたら……。わかってますわよね?」

「いや、わから――」

言おうとした瞬間。

「え……」

左頬すれすれの位置に中島の右足が現れた。

「わかって……ますわよね?」

つま先で頬を軽く擦ってくる。

「あ、は、はい……」

こ、こいつ……やばい……。

「よろしい」

そう言って足を下ろすと、中島は踵を返して学園の方角へと向って歩き出す。

「あ、あのさっ」

若干、放心状態ではあったが、このまま公園を出さしたら駄目だと思い、呼び止めた。

「なんですの?」

一応立ち止まりはしたが、向けてくる目は冷たい。

「お前に近づくのは……どうなんのかな?」

まともだったなら絶対に聞くことはないことだが、こうなった以上聞くしかない。

「なに言ってますの?」

「いや、なにって、そのままの意味だが……」

普通に質問で返されると、なんか、フラれた気分になるじゃねえか……くそっ。

「まあ、勝手にすればよろしくてよ」

ため息混じりに中島は言い、“ただ”と続ける。

「そんな意味の無い事をする暇があるなら、他にやることがあるのではなくて?」

「い、意味はあるんじゃないかな……。いや、ないってことか……。そうか……」

やべえ……本気でフラてるじゃないか……。なんか泣きそうだぞ……。

「お主それでも男か! なに引き下がっておるっ!」

「そうだぞ百ちゃんっ! その中島は中島じゃないんだぞ!」

その中島は中島じゃない……?

「あ、そ、そうかっ」

いかんいかん。危うく、本気にするとこだった。危ねえっ……。

「おい、ビチクソツインテール! よく聞けっ! 俺は、お前とアリスに近づいて――」

「っ……!」

言い終わる前に、中島が俊敏な動きで近づいてくる。

「ちょ、ちょっと待って、最後まで言わして――」

「ふっ……!」

やばいと思った瞬間に時既に遅し。

「ぐふぅっ……!?」

中島の拳が腹にめり込んでいた。

「っ……!」

そこからまだ攻撃は終わらず……。

「ぐぁっ……!?」

顔面にハイキックをお見舞いされ、為すすべなく地に伏すことになってしまった。

「くっ……ぁ……」

アリスが普段、手加減してくれていたことがよくわかる……。

「ぅ……」

こいつのはガチだ……。殺しに掛かってる……。

「中島っ! そこまでだ! こうなりゃ俺っ――がはぁっ!」

助けに入ってきた爺も瞬殺で地に伏せ……。

「お、お主っ、よくもっ――ぎゃっ!」


混姫ですら、手刀で黙らし……。


「ふっ……。次はなくてよ」


中島は颯爽とキンジロウ公園から出て行ったのだった……。


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