拝啓、草むらにて。
私、モモ太郎は息子というか愚息というか孫というかの百太郎が友人と思しき者たちとドッジボールをしているのを見ています。
所詮は微妙な年齢で生意気なガキ共の遊び、なんて切り捨てることなかれ。
「うぁお! うさぎキャノンイェエエ!」
見ている私は興奮を覚えてる。
「…………」
隣で見ている恋ちゃんこと、百太郎の幼馴染である少女はそんな私を冷めた目で見て蔑みを覚えてる。
「あのさ……分かってる? この状況」
声も冷めていてのこの言葉。
正直、ちょっと心がやられた。
「いや、分かってるよ。でも、ちょっと興奮しちまうじゃない」
あのアリスちゃんが放ったボールで赤色ヘルメットの多分ゴリラが数十メートル後ろに下がっちまうんだぜ。
まあ、やったかと思ったら、ゴリラのやつもギリギリのとこで耐えやがったからこれまたやるなってもんで。
「それに、見てる感じは普通にドッジボールしてるだけ。危ない感じはないだろ」
「いや、十分に危ないですよ。ほんと、ちゃんと見てます?」
「見てる見てる。だから、興奮したんだからね? ほら」
「はぁ……。だったら、安全とは言えないですよね。明らかにボールの威力もスピードも人間じゃないですよ」
ふむ。まあ、なんか昔の戦隊モノみたいな格好してる奴らの身体能力に人間離れしたところは感じないでもない。
アリスちゃんも簡単そうにしているが、実際、避けるので精一杯な所はありそうだしな。
「でもさ、気付いてる? あの赤いやつ、多分ゴリラだと思うんだけど。あいつも、その仲間の黒いのも本気で狙ってないぞ」
「そ、そんなことっ……ま、まあ、気付いてますけど……」
「あんれぇ〜? もしかして気付いてなかったのぉ〜? そこまで冷静を欠いちゃってる系ぇ?」
「う、うるさいなっ! でも、さっき百ちゃんとアロマ姉さんが危なかったじゃないですか!」
「はっはっは。いや、あれは……確かにそうだな。あれ? なんでだろう?」
「馬鹿にしといて根拠なしか! やっぱり危ないじゃないですか!!」
いや、見てる感じ、ゴリラ達は確実に避けれる範囲でギリギリ攻めてるのは間違いないはずなんだ……。
ただ、あの一瞬だけは完全に百ちゃんを狙っての一発に見えないこともなかった。
「そ、そりゃ、あれだよ。ずっと避けれる玉投げてたらアリスちゃんに気づかれるだろ。だから、変化を付けたんだって」
まあ、知らんけど。
「まだ、様子見は必要だから見てよう。な? ほら、これ、吹くと笛になる草だ」
適当に千切った草をムスッとしている恋ちゃんの手に握らせる。
「はぁ……わかりました。でも、危なかったらすぐ出ていきますからね。そのつもりで」
「任されたし。……つうか、ごめん。恋ちゃん」
「何がですか」
問返してくる恋ちゃんの声にはまだ不機嫌さが少し残っている。
「いや、その、さっきさ……」
正直、言いづらい。
でも、言うしかない。大事なことだ。
「渡した草。先っぽににゃんこのウンコ付いてる。多分」