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学園奉仕活動ー序ー 初の依頼困難につき

未知との遭遇と体験と依頼

「えぇ……っと……」

これはアリス宛で、こっちがロピアン宛……。

「あ、違うか。これはロピアン宛だ」

んで、これは寝子宛……。

「おおっ」

レア(ゴリラ宛)出てきたっ。

「なになに……」

拝啓ゴリラ殿。
この度依頼書を書かせていただいたのは―――ええいまどろっこしい説明は省かせていただくでござる!
我ら忍法部は御主の肉体を見込んで助っ人に来ていただきたい!! それを強く所望するでござる!!

「あぁ~はいはい。お疲れさん」

予想はしてたんだが、やっぱりゴリラへの依頼はこんなんばっかで飽き飽きしやがる。

「ロピアン宛もなぁ……」

山をなしている紙の一つを手に取り目を走らせる。


ロピアン様を指名します(はぁと)
理由はぁ……やだっこんなとこに書けないっ!
でもでもぉ、どうしてもロピアン様に乗っていただきたい相談が―――。

「なら相談があるだけを書け。やり直し」

くしゃくしゃにして放り投げたそれは屋上フェンスを越え、学園の出っ張りか下の花壇かグラウンドにでも落ちたことだろう。

「ざぁんねんっ……」

まあ、またのチャレンジをお待ちしているよ。

「はぁ……」

寝転がると青空が視界いっぱいに広がる。

「だっるいなぁ……」

ずっとこうしていようかな、もう。

「仕分けなんか飽きたぜぇ……」

何故誰よりも早く登校してこんなことせにゃらんのだ……。

「はぁ……」

そもそも知らないうちにこうなってた。

アリスにケーキを渡した次の日、学園内に一歩足を踏み入れたところで奉仕活動部全員に取り囲まれ、俺が居なかった数日間に依頼書なるものをアリスと恋ちゃんが作成したこと、それを全学年のクラスに配置したこと、そして、それ以来皆は依頼を少しずつだが遂行していること、そして……。

「どうしてかな……」

俺への依頼は未だに、ひとっつもないこと……を聞かされた。

「知り合い少ねぇしな……」

それは仕方ないことだとわかってる。それにそういう理由なもんで、仕分けをさせられているのもわかるさ。

「ああ、ほんと……わかるよ……」

朝、多ければ昼も仕分けに追われるのも、皆が活動終わるまで屋上で待機しなきゃならんのもわかる……。

「頭ではわかってる…………」

でも心がさ……納得しないのよ。

「あぁ~……駄目だぁ~……」

世の中で何よりも邪悪な気持ちが芽生え始めてきやがった……。

「ふぁぁ……ぁ……」

そう、それは……。


“めんどくさい”

だ。

「…………」

例えば勇者が魔王を退治する瞬間そう思ったらどうなる?

名探偵が事件解決間際そう思ったらどうなる?

社会の闇を掴んだジャーナリストが暴く前にそう思ったらどうなる?

結婚する前はあんなに綺麗だった嫁が結婚してからそう思ったらどうなる?

物語の主人公がそう思ったらどうなる?

悲劇からの悲劇が繰り返す。

幸せからの悲劇が起こる。

もしくは何も起きずそこで終わる。残されるのは無だけ。

「でも、それならそれでいいじゃないか……」

全部が全部ハッピーエンドなんていうおめでたい頭の馬鹿どもに鉄槌を―――。

「って、駄目だ駄目だっ!」

頭を振って思考を遮る。

「あ、危なかった……」

もうすぐで、魔王(めんどくさい)に支配されるところだ。

「油断も隙もねえ……。やだようっ、もうっ」

奴(魔王)は眠気というこれまた厄介な武器も持っているから、ほんとたちが悪い。

「俺は負けねえっ……」

今はまだ始まったばかりだ。もう少ししたら俺にもたんまりと依頼が来るはずなんだっ。

「お前になんか絶対に負けねぇっ! かかってこいこの野郎!」

魔王なんてクソくらえだっ!

「なんてな……。一人でなに言ってるんだろ―――」

「上等だこらぁ!やってみろこの野朗!!」

…………。

「やだなぁ……」

なんだか返答に近いこだまが言葉が返ってきたじゃないか……。

ほんとやだなぁ、怖いなぁ、やだなぁ、どうしようかなぁ、やだなぁ。

「イィィィィ……」

なんて音をさせながら首を回し、声のするほうへ顔を向ける。

「キィィィィィ……」

やっぱり戻す。

「イィィィィィ……」

もう一回向ける。

「うぁぁああああぁあぁ……」

すると、そこにはオレンジ色したモヒカンヘアーの誰かがっ……。しかも物凄く睨みながら歩いてきている。

「なんまんだぁ、なんまんだぁ……。神様神様っ」

お願いですから通り過ぎてください。

「てめえなに見てんだよ! ああ!!」

来たぁっ。やっぱり来たっ!

あぁ……めんどくせ。

「とりあえずさ……見てることわかってる“お前”も俺のこと見てるってことだろ? なに見てやがるんだ。まったくっ」

もう、最悪だな。近づいてきたことにより、更に明らかな不良なんだなってことがわかる。

「ぁんだとこらっ」

制服のシャツはもちろん腕まくりで、ボタンなんかも留めずTシャツがこんにちは状態でズボンは腰パン。両耳にはもちろんピアスがついている。両方あわして六つ。そして、極めつけは眉毛が無い……。

「ああっ!?」

だが、右瞼の上、右端辺りに丸型のピアスが付いてるので顔の全体像が把握でき、恐らく、そのピアスはあったであろう右眉毛の端についていたことがわかり、対を成しているはずだから左側にも眉毛があったことがうかがわれ、そこから推測するに人間だということがわかる。

「なんだっていってんだろてめえ! やんのかこらぁ! なにジロジロ見てんだ! ああっ!?」

最後に性格だが、胸ぐらを掴み首を圧迫してくるところを見るに、凄く攻撃的な性格のようだ。

「ふぅ……」

非常に困った事態だ。この者―――眉毛無しヤンキー科モヒカン属に分類されるこの生命体は私が最も嫌いな人間だ。

「いや、そらあんた、見るだろうに。お前がこうやって掴んでさ、見るように仕向けてんだから」

「ああっ? なんだてめえ! 目が合うのはお前が見てるからじゃねえかっ!!」

あぁ……やっぱりか。これなんだよな、嫌なのは。同じ日本人なのに外国の人と話す以上に越えれないし壊せないどうしようもない言葉の壁を感じるから嫌なんだ。……同じ言語なのに通じないんだよな。

「おいっ。なんだおい、こら。無視してんじゃねえぞ。あっ?」

話が通じないのによくもまあ矢継ぎ早に話せるもんだよな……まったく。

「いや……無視はしてないよ。というか、そもそもお前は誰なんだよ。何年何組のなんだ、お前は」

「あぁっ!? てめえこそ誰なんだこの野朗! こっちは今日来たばっかで知るわけねえだろ!!」

えっ……今日来たばっか……?

「ちょっとまてよ、お前なに? 転校生なの?」

「ああ? 転校生ってなんだ?」

えっ……?

「いや、だから、他の学校とかから移ってきたのかって……。説明いるぅ? これ」

「ああ。移ってきたなぁ。そう言えやっ!!」

えぇぇぇぇええええっ! 怒られたっ……!? ちょ、まじかよ、や、やばいやつだっ。こいつ本物の馬鹿かもしれないっ。

「いや、あのっ、な、なんかっ……」

いつでもウエルカム学園だから、急に移ってくること自体は珍しいことでもないけど、転校生っていう言葉がわからない馬鹿は流石に相手をしちゃいけない気がするっ。

「ご、ごめんっ」

何でかはわからないが、とりあえず謝ると……。

「ったく、わかりゃぁーいいんだ。わかりゃ」

オレンジモヒカンは胸ぐらを掴んでいた手を放し、あっさり身体の向きを変え屋上扉へと向かっていった。

「…………」

一体全体なんだったのかはわからない……。


だが、思うことが一つある。


俺も含め、わりと変な奴多い学園だが……。

「ないわ……あれはないわ……」

あいつとはもう絶対に関わりあいたくない。

と、心の底から思った……






のにさ……

今さっき決意に近い感じで思ったのにさっ……!

「あ? なんだ?」

なんで俺の席に我が物顔で足組んで座ってんのっ、このオレンジモヒカンっ……!

「いや、お前がなんだよ……。それ、俺の席だ……」

もう項垂れるしかない……。俺は自ら動かなくても平穏には過ごせねえんだきっと。

「そうだったのか? まあ、いいじゃねえか」

そう言ってモヒカンが笑うので……。

「あははぁ……。まあ、いいか」

一緒に笑いその場を過ごすと、いつも空いている引籠早苗(ひきこもりさなえ)さんの席まで歩いていき、腰を下ろした。

「どうして隣に座るんですの……?」

「なんてこったいっ」

隣、中島だったのかよ……。まあいいや。

「いいじゃないか。嬉しいだろ、たまには」

中島の眉間の立て皺を右手の人差し指で押してやる。

「嬉しくないですわ! それに文法的におかしいですわ!」

「はいはい。人前ではそう振舞う約束だもんな。悪い悪い」

キーキー怒る中島の頭をわしゃわしゃ撫でる。

「ちょっと気安く触らないで―――」

中島がそう言い俺の手を振り払おうとした時だった。

「ま、まじかよ。人前ではってなんだっ? 百太郎の奴中島と付き合ってんの?」

「へぇ~~仲悪い風に装ってるんだ~」

同じクラスのモブたちがいっせいにこそこそと噂をし始める。

「ふっ……」

予想通り。これでキーキーうるさい中島も、何をしようが噂をされてしまう事から身動きが取れなくなり、大人しくなるはずだ。

「貴方……。一体どういうつもりなんですの……?」


思惑通りだが……こうすんなり落ち着いて聞いてきやがるとはちょっと予想外だな。
もう少しばかり騒ぐかと思ったのに。


まあ、静かにしていてくれればどうでもいいんだけどな、そんなこと。

「どういうつもりもなにも、それだよそれ。お前がキーキー言わず、静かにしていてくれたらそれでいい」

ということで、俺は寝る。

「なんですってっ!? ちょっとお待ちなさいっ! まだ話は終わってませんわ!!」

「あぁーーはいはいっ。わかったよ。お休み」

揺さぶってくる中島の頭を机に突っ伏したままの状態で適当に撫で、再び漆黒の無に落ちる。

「またっ! また、私の頭を気安く撫でたましたわね! ゆ、許せませんわっ、そ、そんなに撫でられると私っ……す……好きに……」

「え゛っ……!!」

思わず漆黒から引き返し中島の顔を見る。

「頭はダメなんですの……本当に。私の頭を撫でれるのは両親だけ……それなのに……気安く撫でてくるなどと……私、そんな心意気見せられると……」

赤ら顔で、なに言ってるんだこいつ……。そりゃ、確かに気安く撫でたのは悪いと思うが……心意気って、そこまでのこと……?

「お前の為を思っていうけどさ……。止めておけよ? 俺みたいな奴は」

適当なあしらいから恋心なんてもんが芽生えたらたまったもんじゃない。
金髪キーキー女と恋仲なんか想像できねえし。

「それは……保証いたしかねますわ……だって……ねぇ?」

いや、黙れー! 保証しろそこ!

「いいや、すまなかった! 本当、この通りだから!」

頼むからそれは止めてくれといわんばかりに、座っていた椅子をどけて土下座をする。

「で、でもぉ……そういう気持ちが芽生えたら……しょうがないこと……ではありませんこと……?」

「いや、中島様! それは勘弁してくれ! 申し訳ない! 芽生えるな! 芽生えても根っこからぶち抜いてくれ!!」

お代官様ー!!というぐらいの気持ちで額を床に擦りつけ頼み込む。すると。

「……ふふっ」

小悪魔的な笑みが振ってきた。

「ようやくちゃんと謝罪してくれましたわね」

顔を上げると、頬杖をつき悪そうな笑み張り付けた顔で見下ろす中島と目が合う。

「えっ……嘘……。じゃあ、今までのは……」

「ええ、嘘でございますわ。百太郎様。そんな簡単に恋が芽生えるわけないじゃないですの」

あぁ……そうだったのか……。こいつまだ謝罪、根に持ってただけなんだ……。

「ふふっ。土下座までしていただけるとは思ってもみませんでしたわ」

こっちはどんなことだったかすら忘れてたが……ていうか、俺が謝罪すべきことかすらどうかもわからない感じなんだが、こいつは今も俺が謝罪するタイミングを窺ってた、そういうことなんだな。

「ふぁっふぁっふぁ。こりゃぁ、一杯食わされましたな。ピンクなんか穿きやがりまして」

中島なんとか殿。この御方も案外、ただのうるさい馬鹿ではなかったようでございますな。
こりゃぁ、一杯食わされた。愉快愉快。愉快でございますな。

「ふぁっふぁっふぁ」

ということで、立ち上がると、退けていた椅子を元の位置に戻しまた寝る。

「おやすみでございますな」

これにて一件落着。めでたしめでたし。

「…………」

いい夢見れそうだわい。

「すぅ……」

「ちょ、ちょっとお待ちなさい! なんですのその御老公な感じの切り替えっ! というか、ピンクってなんですの!」

もう無理無理……。漆黒の無から引き返すのは不可能……さ。

「ふぅ……すぅ……ふぅ……」

再度揺さぶってくる中島を今度こそ完全に無視し、楽園への扉を開き掛けた時だった。

「っぁあーーーい! へっへっへ。ばかやろっ」

教室の扉が開かれる音と共に瞬時に酒臭い臭いが教室中を浸食し始めたのは。

「中島ぁ~はぁ~うるせぇ~んでぇ~~っとくりゃ、おいっ」

「先生っ! 歌で言わないでくださいましっ! というか、これは百太郎さまが―――くさぁっ!!」

中島がそう叫ぶと教室中がざわめき出した。

「またかよ、あいつ……」

「だんだん酷くなってない?」

「マジで、何しに来てるのって感じ……」

「前はそうじゃなかったよね? まあ、臭かったけど」

恐らく、最近、酒に酔ったままクラスに来ては授業をせず寝ているというジロさんのことを、皆コソコソ言っているみたいだ。

「…………」

流石にまあ、それは結構な問題だと思う。

「ふぁ……ぁ……」

だが、俺には関係ない。仮にあったとしても、今日は特に寝て過ごすつもりだから好都合ってもんだ。

「ぐぅ……」

気にしない。寝る。

「ったく、おめえらわよぉ……。俺っちの気持ちを知りもせずによぉ……」

絡み酒かよ……うぜえ……。

「ったくよぉ……ほんとによぉ……」

ていうか、なんで左斜め前―――中島の席の前辺りから聞こえるんだ?

「先生っ! 臭いですわ!! それに何度も言ってますように! これは私の机で教卓はあっちですわ!」

あぁぁぁ……中島もうるせえ……。席ミスったぁ……。

「キーキーうるせえんでぇ、中島ばかやろう。……そんなことよりよぉ、今日は転校生がよぉ……」

じろさんの言葉が急に途絶えたかと思うと、何故だかごくごくと喉を鳴らす音が聞こえ、途絶えたと思ったらお次は、何か固い物……コップか何かをテーブルに置いたような音が聞こえてくる。

「ぅえ~っとぉ~い。あぁ……? どこにいるんでぇ?」

「ちょっと先生! 毎日毎日、お酒のビンを机に置くのはやめてくださいまし!」

酒瓶の音かよさっきの……。しかも毎日っ……? そら中島も嫌だろうなぁ……。

「うぁっ? おめぇ、なんでぇ百太郎の席に座ってるんでぇ?」

「ああ? 俺か? 俺のこと言ってたのか? さっきから」

お前以外誰が居るんだ……。馴染みないだろこの教室に……。本当、馬鹿なんだなあのモヒカン。

「そうでぇ。まあ、そこでもいいからよぉ~。自己紹介してくれぇ」

「自己紹介ってなんだ?」

やっぱりかぁぁぁ……。そこも説明居るのかぁぁぁ……。

「おまっ、そりゃ、皆に聞こえるように名前を言うんでぇ。頼むぞおぃ」

「ああ。名乗りか。名乗りを上げたらいいんだな?」

名乗りは知ってんのに何故自己紹介がわからない……。

「そうでぇ。まあ、名前だけでいいぜぇ。身分や素性は知ってるしなぁ。家系とかも今の時代関係ねぇ。戦じゃねえからよぉ」

「戦功とかもいらねえよな?」

仮に言えといったらなにを言うつもりんだよ、モヒカンは。

「いらねえぇ。とりあえずはやく頼むぜぇ。俺っちはねむてぇんだ」

「おう、わかった。じゃあお前ら聞け……」

モヒカンは徐に立ち上がると、前を向き堂々とした感じでその名を口にする。

「俺の名前は綾野布丸(あやのぬのまる)だ。まあ、よろしく頼む」

ぬ、布丸っ……なんかすげえ名前だ……。
この状況で自分の名前嘘付く奴なんて居ないだろうし、仮にウケ狙うにしてももっと皆に想像つきやすいぶっとんだ名前言うだろうしな……。

「すげえな……」

まじまじと布丸を見てしまうってもんだこれは。
旅先とかで、銅像見るように、あれが、布丸なんだなぁ~って。


「布丸だってよ……」

「ぷっ……くくくっ……ぬ、布丸ってっ……」

「ちょっと笑っちゃ駄目だよ」

「とかいって、笑ってんじゃん。しょうがないよ面白いんだから」

むっ、これはなにやらいけない方向にいきそうな予感が……。

「ああ……?」

少し話しただけだが、布丸という人間は嫌というほどよくわかった気がするから、多分……。

「お前等……今なんつったんだ……」

やっぱりだ……。抑えてはいるようだが、身を乗り出しつつある感じ、今すぐにでも笑ったやつ等のとこに詰め寄りそうだ。

「何黙ってんだ? 笑ったよな、明らかによ」

まあ、俺も名前で笑われたりいじられたことは何度もあるし、布丸が怒るその気持ちはわからんでもない。つうか、見た目でわからんもんかね……笑ったりしたらヤバイやつだって。

「はぁ…………」

ったく、しょうがないな。馬鹿共めがっ……。

「あのっ、百太郎様。どこへ?」

このタイミングで何しやがるんだというような焦りと共に問うてくる中島を無視して、教卓に向かうと
……。

「全員起立っ!!」

ダンッと両手で思い切り教卓を叩いてやる。

「………………」

いきなりのことだからね。そらまあ、皆驚いてこっち見るだけで立つわけがないよな。

「立つ気ないか? ないならしょうがない」

黒板からあるものを取ってから皆に向き直ると、もう一度さっきより大きな声を意識して……。

「全員起立って言ってんだろうが! 二度は無いぞ! マジで投げる!!」 

と言ってやると、皆渋々だが立ち上がった。

「馬鹿共めがっ。初めから従いなさいよ。まったくっ」

普段何気なく着ている制服でも、黒板消しで汚されるのは嫌なもんだろうからな。
チョークって、あれほんと、意外と取れないからな。

「人の名前を笑うってさ、笑われた本人もだけど、そいつの名前を真剣に一生懸命考えた親も馬鹿にする行為だというのが、今まで年生きてきてわからんかね? こんなの小学生の時でも理解することだぞ」


まあ……俺は爺に名付けられたわけで、爺さんもモモ太郎だから「百太郎でいっか」みたいなノリだったらしいけどな。

「腹痛めて生んだわけだ。かあちゃんが。それで、こう育って欲しいああ育って欲しいとか思って名前にそれを託したんだよ。それを笑うってさ、最低な行為だとは思わないか?」

まあ、実際、俺はロピアンに対して笑ったことがある。しかも、何度も。いまもたまにツボる。
だが、それはそれなわけで「すまないロピアン」と今この場で心で謝っとくとしよう。

「私は笑ってないんだけど……」

「俺も……」

あぁ……出た出た。こういうとき何故か空気が読めない馬鹿が出てくるもんなんだよな。

「笑ってないから、私、俺は関係ない。そう言いたいのか? マジでそう思うならお前らほんと小学校、いや幼稚園からやり直した方がいい。マジで死ねっ」

連帯責任ってもん習ってこなかったのかこいつら。
時にうざくはあるが、こういう時に自己主張をするのは間違ってるしめんどくさい奴認定まっしぐらだってのわからんのか。

「どうせ、モヒカンが暴れて大事になったら、お前ら、いや、クラス全体の責任になるんだ。見ていた奴は何していた。どうして止めなかったとか言われんだぞ?」

俺は私は笑ってなかったと主張したところで、はいそうですかなんてなるわけがない。
今爆睡こいてるじろさんだって、素面でちゃんとしてたならそういう類のことは言ったはずだと俺は信じている。

「ぐぁ……がぁ……すぴぃ……」

まあ、こういう時に寝ている行為自体は最低だがな。結局の所、このオヤジの全責任になるし。

「同じクラスに居て共に過ごしてんだ。家族とまでは言わんがそれに近い仲間みたいなもんだろ。仲間の馬鹿が馬鹿したんだ。それを一緒に謝るような頭は最低限持とうぜ。……と、俺は言いたい」

負けちゃいけない……なんか胸が痛いのは気のせいだ。気のせいなんだ間違いなく。

「さあ、皆、布丸のほうへ向け。もう関係ないとかほざく馬鹿は居ないよな?」

居たらぶん殴ってやる。アリスだろうが中島だろうがゴリラだろうが、死ぬ気でぶん殴る。

「…………」

本気でそう思っていたが、意外にも俺の下手くそなスピーチが聞いたらしく、全員が布丸へ顔を向けてくれたので。

「綾野布丸様。うちのクラスの馬鹿が名前を笑ってしまい、本当にすいませんでした。……誠に申し訳ない!」

率先して頭を下げると、クラスの皆も次々に布丸へと謝罪と共に頭を下げていく。

「い、いや、ま、まあよ、わかりゃーいいんだ。もう、いいって、おい」

布丸も少し照れながら、頭を下げていく生徒一人一人に「気にすんな」やら「おう!」なんて返事を返していくので、大事に至らずに済んだようだ。

「うむ……」

なんて、腕組して教卓から見ていたのだが、あることに気づいてしまった。

「なんでこんなことしてるんだろ……俺」

ただ、静かに眠りたいだけでこんなことをしたわけだが、そうならそうと、どうせ自習だろうし、乱闘騒ぎになろうが放っておいて屋上行けばよかった……。

「布丸君。本当にごめんね」

「良いって。気にすんなよっ」

「布丸君。凄い髪型だね」

「あん? かみがた……漫才か?……あ、あれか、ヘアースタイルか。いや、凄くねえよ。こんなの己でちゃちゃっとやりゃできる」

「ええー! 自分でやったの!? すごぉ~い!」

今から行くか……。なんか布丸祝福ムードはそれもそれでうざいもんな……。























「え~っと……アリス宛て53枚。ロピアン宛49枚。寝子宛38枚に恋ちゃん28にゴリラが……20っ!」

よっしゃ終わったーーー!!

「っつぁはぁ……」

空を仰いでそのまま寝転がる。

「結局全部やっちまったじゃねえか……くそっ」

屋上に来てから、寝ようと試みたがなんだか寝れず、しょうがないから仕分けの続きをやっていたら思いのほか無心で黙々と進み今だ……。

「今日の俺は真面目かっ……」

この調子なら、昼に集まった依頼書も難なく仕分けできてしまうぞ。どうなってんだいったい。

「ふぅ……」

つうか何故、毎日毎日、依頼書がくるんだ? 学園に来る人間が毎回毎回入れ変わってるわけでもないだろうにさ。

「ちょっとは自分で解決しやがれってんだ……」

アリスやロピアンとか特に「またこいつかよ~……」なんてこと多々あるはずだし、ほんとめんどくさいだろうな。相談と称して呼び出され告白されているようだし。

「いっそ誰かと付き合っちまえばいいのにな……」

なんて、呟いた時。

「誰のことを言っているんだ?」

すぐ近くで、聞き覚えがある声でそう返ってきた。

「お前のことだよ。アリス」

隣に腰を下ろしているだろうアリスに空を見上げたまま答える。

「何故貴様にそんなことを気にされないといけないんだ?」

声に少し不機嫌さが混じっているが、そんなの俺と話すときは毎回だし気にしない。

「いや~、大変だろうなって思ってさ。依頼とは名ばかりの告白ばっかだろ?」

他の人間からすりゃ羨ましい事であっても、一人で抱えれる量を大幅に増えたら、それはそれでしんどいもんで、悩みとかもでてくるんじゃないかと思う。

「それはそうだが……。大変ってことは無い」

「そうか。ならよかった。まあ、俺が勝手に思ったことだ、忘れてくれ」

俺があーだこーだ考えたところでなんにもならないし、ロピアンもそうだがアリスも慣れてるんだよな、そういえば。

「私より貴様はどうなんだ?」

「俺? 俺に告白してくる奴なんていないぞ?」

むしろ、一回でもされたいくらいだ。馬鹿にしてんのかこいつ。

「違う。依頼の事だ。一緒にやってたゴリラだって部活の助っ人で大忙しじゃないか」

「あぁ……。それね」

確かにゴリラですら大忙しみたいだな。あいつ、今日は探検部とかいうのの助っ人で山登ってるし。
どう助っ人してるかは謎が多いけど。

「まあ、こればかりはどうしようもないだろ。皆が選んで依頼してくるんだしさ」

「確かにそれはそうだが。このままではいかんだろう」

いや、別にこのままでもいいんだけどな……。同じめんどくさいなら紙と遊んでる方が楽だ。
冬は暖を取れる筈だし。


「このままでは貴様……夏休みに補習というなの学園全掃除だぞ」

「えっ……うそぉっ!!」

あの悪名名高い学園全掃除俺がすんの!?

「学力より普段の生活態度で決まるんじゃないのかっ!?」

「その普段の“生活態度”が貴様は絶望的だろう。ばかもんが」

う……確かに……。思い当たる節がちらほらある……。遅刻はするわ、授業中は寝てるわ、学校サボるわ…………駄目だ。詰んだ……。

「それに、全校生徒で見ても、貴様みたいに生活態度が悪い者はそうはいなくてな、罰を科すこともできない。ということで、今年からは奉仕活動部内で群を抜いて一番活動してない下位二人が学園全掃除を任されることになったんだ。聞いてないのか?」


「な、なんだってっ? 聞いてねえよ、おいっ! つうか、そんな長い説明足した所で俺って言ってるようなもんじゃねえかっ!」

んな馬鹿な話があるか! どんだけ広範囲だと思ってるんだ! 二棟もあんだぞ馬鹿でかい校舎が! 二人でできるかんなもん! 業者呼べっ!

「紛れも無い真実だ。飲んだくれの担任と夏休みの間、三人で寝泊りすることになる」

「この学園になぁ!!」と言いたげにアリスが顔を向けてくる。

「最悪だ……。もう確定事項じゃないか……。俺と後は寝子か恋ちゃんかゴリラのどれかだろう?」

「まあ、そういうことになるな。だから奴らも必死なのだ。山行ったり、先輩に撫で回されたり、他校の選手を6人抜きしたりな」

そうか、だからなのか……普段ならめんどくさがるゴリラやすぐに寝たがる寝子が文句一つ言わないのは……。恋ちゃんはまあ、ああ見えてオールマイティーだからな……あの子。

「あぁ……頼む。誰か、誰かこの私に依頼をおくれっ……!」

空を仰ぎ叫んでみる。

「では私が差し上げますわよ」

屋上扉へ顔だけ向けると、中島がこちらにむかって歩いてくるのが見えた。

「なんというタイミングなんだ……」

俺ってついてるんだろうかな……いや、もしくは憑いてるのか……?

「依頼。……私が差し上げますわ」

近くまで来た中島が依頼書を俺に渡してくる。

「えぇ……お前、そんなこと言って、“死ね”とか“学園来るな”とか書いてんじゃないだろうなぁ」

マジでありえそうだから怖いんだよな。こいつに嫌われている自信は何よりもあるから。

「書いてませんわ! はやくお読みなさい!!」

あぁぁぁ……キンキンうるさい……。

「わかったよ。では、拝見いたします……」

ということで、早速、二つ折りにされた依頼書を開け目を向けると、中島の名前(下の名前は勿論汚れて読めない)と指名欄には俺の名前が書いてあり

「…………」

肝心の内容欄だが……。

「お前これ……まじで……?」

一応問うてはみるが、中島は何も答えず、ただ真剣な顔で頷く。

「そうか……」

あんなにキーキー喚いて嫌がってたのに、実は先生思いのいい奴だったみたいだな。

「まあ、わかった」

初の依頼にしてはどうなのかと思うが、中島が本気でそれを願うならばやってやらんこともない。

「任せとけ」

そういって、中島の頭をポンと叩くと、元の二つ折りにしてポケットにしまった。



『元の有馬先生に戻してくださいまし』


とだけ書いてある依頼書を。


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