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学園奉仕活動ー序ー VS 5-FIVE-

見える子くん

所々雑草が頭出し固くなった地面、辺りは伸びっぱなしの草木が背比べし、外側にあるフェンスを隠している。
第二グラウンドなんてあたかも使っているように名付けられてるがやはりと言うべきか、明らか手入れされておらず、誰も使ってはいない。

「先輩……居ない、ですね……」

「ああ。居ないな」

アリスの奴、確実に腕組みして中央に居ると思ったんだが、グラウンドが見えた瞬間から居ないことは明らかで、とりあえず、と、グラウンド中央へと由加と二人で進んで来たわけだが、現れること無く、数分が経っていた。

「第二グラウンドって言ってました……よね? それか、もしかして、旧校舎?」

確実に第二グラウンドと言っていたと思うが、由加が記憶違いを疑い始めたので、遠くに見える旧校舎へと目を向ける。

「いや。何人かは居るみたいだけど、アリスじゃないな。……それに、第二グラウンドって俺も聞いた記憶あるぞ」

「いやいやいやっ、ちょっと待って先輩っ! 何人かは居るってなんですか!? 幽霊見えるってのかお前っ!!」

「え? ああ、居るぞ? 二階の左端の窓に一人、三階の中央に一人に右端に二人と外にも一人……」

「いやぁああああああ! もう聞きたくない! 言うな言うな言うな!!」

由加奴は自分で聞いてきたくせに、耳を塞ぎ屈んで目を閉じる。

「一番意味分からんのが、屋根補修してるじろさんみたいな大柄のおっさんが居てさ……」

「言うな言うな言うな! やめろーーー!」

「んで、その下に5、6人が居て、それを見上げてんだよな」

「だから言うなって先輩のバカくそぉおおおお!! 怖いだろぉがよぉおおおおおお!!」

由加は恐怖がピークに達したのか、キレて胸ぐらを掴んでくる。

「ほんとっ! ほんどにぃっ!! やめでよぉお゛お゛お゛お゛お゛ぉぉぉ!!」

忙しいやつだ。キレたと思ったらお次は胸ぐらを掴んだまますがり付くように号泣し始めやがった。

「あーわかったわかった。泣く泣くな鬱陶しい」

由加の頭をぽんぽんと叩きながら、何の気なしにグラウンド周りの草木へと視線を向ける。

「ん……? なんだあれ……」

視線を向けた草木の奥に黒い影みたいなのが見える。

「………………」

つうか、凄い人っぽい……。なんなら、何の気なしって訳じゃなく、視線を感じたから、俺からも視線を向けたのかしれない。

「おい、由加。いい加減泣き止め」

「いいがげんっでぇ……せんばいがぼけなずだがらじゃないでずかぁ……」

「いいから、早く。しゃんとしろ」

由加の両肩を掴んで引き剥がすと、もう一度草木へと視線を向ける。





すると……。






「うぉおおおおおおおおっ!?」

目の前には髪の毛にいくつも大小様々な枯れ葉を付けているにも関わらず、堂々と腕組みして立っているアリスの姿があった。

「なに゛ぃっ、なに゛ぃっ。なんでずかぁっ。まだわだちをおどろかずんでずかぁっ」

「しねえよっ。つうか、はなっからそんなつもりねえってっ。いいから、しゃんとしろって、ほらっ」

また、すがり付いてこようとする由加の両手を掴んで、身体の向きを変えさせ、顎を掴むと無理矢理前を向かせる。

「してる゛ぅぅぅぅ。なんがしてぎだよぉぉぉぉ」

「バカ、もう泣くな! 目開けろアホっ! 見ろちゃんと!」

手刀を食らわすと、ようやく薄目を開けた由加は両頬に涙の道を作りまくったひっでえ顔のまま固まった。

「……もう、いいか」

アリスは冷たい目、凍える声で由加に言う。

「あ……あの、は、はい。……すいません」

瞬時にど緊張して答える由加だったが、アリスは微動だにせず見据えたまま。

「あ、あぁ……あの……」

「待て。ものを言う前にまずその汚い顔を拭え。相手に失礼だろ」

「あっ……す、すいません」

アリスにハンカチを渡された由加はぎこちなくそれを受けとると、顔を拭う。

「ぶぃぃぃぃぃぃぃぃんっ!!」

「おぉおい! 人のハンカチで貴様ぁっ! もっと失礼だろ!!」

確かに自分のハンカチでやられたらそうなってしまうのも分からんでもないが、由加に鼻をかめるサイズのものを渡せばこうなるのは常識だ。アリスの認識不足ってやつだな。

「えっ、あ、あのっ、ごめんなさい。こ、これっ」

「や、やめろっ。渡そうとするなっ。もういい、くれてやるっ。くれてやるから仕舞え」

「い、いいんですか? ……では、その、ありがとうございます」

由加は頭を下げると、ハンカチをスカートのポケットへと突っ込んだ。

「…………」

で、だ。

泣き散らしてた由加の顔を失礼だと言い、自分のハンカチを犠牲にしてまで拭かせたアリスだが、その認識に従って考えたのなら、アリス自身の今の見た目はどうなんだろうか、と俺は思う。
頭の天辺から胸元まで掛かる髪の毛には大小様々な枯れ葉がくっついたり絡んだりしてるし、左頬には砂が擦り付いてるし、両膝にも同様に土が付いてる。

「あ……」

由加も気付いてるんだろう。小さな声を上げると、アリスを下から上まで観察している様に視線を動かす。



“絶対に言うなよ”



“絶っ対、に、言うなよ”



俺から指摘すると絶対に殴られるのでするつもりは無いが、由加にはそう思う。
当然、逆の意味で、な。


「あの………鬼白、せん、ぱい……」


「なんだ?」


“絶、対、に、言、う、な、よ”


何かを言おうとする由加へ視線を向け、俺はそう強く念じるが、当然止めはしない。



だって、言って欲しいのだから。


「あのっ……そのぉ……」


「だから、なんだ。言いたいことがあるなら言え」


そうだ。言え。早く言ってやってくれ由加。


「で、ではその……鬼白先輩」


「うむ」






「ほふく前進でもしましたか?」


おーーい。聞き方ぁーーーーーーーーーーーーーぁっ!


「な、なんでそのこと、貴様っ! バカ野郎!!」


え、えぇぇぇぇぇぇ!? なにその反応ぉーーーーーーーーーーぅっ!


「やっぱりっ! やっぱり、ほふく前進してたんですねっ! つうか、何故ですっ?」


「う、うるさいっ! 私は断じて怖くない! 怖くなかった! ばかやろうこのやろう!」


怖くて茂みに隠れた……。間違いなくそういうことなんだろうな。
アリスには珍しい……つうか初めてだと思うけど、タケシ師匠みたいな事言ってるし。
ピコピコハンマー持ってたら絶対叩き散らしてる筈だ。


「やっぱり、怖いですよねぇ……。私も先輩が居なかったらこんな……幽霊が居る所なんて来れないです……」

「ち、違うっ! 私はお前とは違う! あ、あと、ゆ、幽霊など居らぬわ!」

「いや、居るぞ。旧校舎にだけど、結構、沢山」

「なぁっ、なんだと貴様っ! 嘘吐くな!!」

アリスはいつも以上に感情的に胸ぐらを掴んでくる。


……けど、嘘は言ってない。


「いや、嘘じゃないぞ。言う必要もないから言わなかったが、俺、見えるときは見えるんだよ、元人達が」

「嘘を吐くなと言っているだろっ!! 本当だと言うなら証拠を見せろ貴様!!」

「証拠って……居る場所教えるくらいしかできないけど……」

言いながら、身体をよじり、旧校舎を指差してやる。

「二階の左端の窓とか……三階の中央とか、右端に二人と外にも……」

「なんっ!? うううう、う、嘘を言うなっ!!」

「いや、ほんとだよ? あと、一番意味分からんのが、屋根に大柄のおっさんと、それを見上げてる5、6にーーー」

「源さぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!」

「うわっ! ちょっ、お前っ……」

証拠と言うから教えてやったというのに、アリスは何者かの名前(?)ぽいものを大声で叫んで俺を弾き飛ばすと、茂みへと走っていく。

「なんなんだよ……いったい……」 

いつもの倍以上のスピードで駆けていくアリスの背中を見ながら呟いていると、その刹那、背後で耳をつんざくような破裂音が響いてきた。

「な、なにっ、なに゛ぃっ!?」

アリスと破裂音、その突然の事が二つ重なり、再び泣きが入って半狂乱に陥り出した由加が腕に抱きついてくる。

「幽霊っ!? 怒ったゆ゛う゛れい゛っ!?」

んなわけはない。俺が知る限り、怒って爆発する幽霊は見たことないし、多分居ない。
もっといえば、夕暮れと言えど、明るい内に居る元人達で生前の事を繰り返してるのは何も害がない。
だからこそ、俺も落ち着いてられるんだ。そこまで怖くないから。

「なんだろな……」

土埃が上がってるわけで、確実に俺たちの背後で何かかが爆発したのは間違い無さそうだが……旧校舎の人達が寄ってきてる様子もなかった……。


てことは、多分、また別の外的要因。即ち、面倒事だ。


“おいっ! やり過ぎやろサダシ! 百太郎死んでんちゃうん!”


“だ、大丈夫っちゃよゴリラさんっ! 百太郎さんはこんなんでしなんっちゃ!”



「え……おいおい。まじかよ……」


前方遠く、土埃を隔てた向こうから声が聞こえ、人影も見えてくるけど……あれって……。


“バカサダシ! 俺達は今ゴダイシンだぜ! 手加減は必要だ! ヒーローらしく!”


「う、うわぁ……なにあれぇ……」


土埃が晴れ、由加も近付いてくる奴等に気付いたようで、素に戻り引き気味の声を上げる。


「いい歳して何やってるんだ、あいつら。……キモいな」

見るからにゴリラと思われる奴を中心に左右に寝子とロピアン。そしてその更に外側の左右にサダシと鉄。
声と発言と体格からそう思われる野郎共が、昔見たことある気がする戦隊ヒーロのようなヘルメットと服を着込んで、五人並んで向かってきていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」


深呼吸に近いほどのロングブレス溜め息が出る。




ほんと、確実に面倒事。




最悪だ。


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