「アリスっ!!」
思わず叫んでいた。
「おい、大丈夫かっ!」
普段あんなに理不尽に暴力とか振るってくるのに、こんな時だけ自分を犠牲にして俺を守るとか映画のジャイ⭕ンかってのっ。
「ん? 何がだ?」
「え、何がだ……? 何、なんで……?」
あんれぇ……? 確実にゴダイシンレッドがボール投げて来てたよな……?
間に合わない様なタイミングで……?
「何って、貴様がなんだ? どうして大声で私を呼ぶ」
「どうしてって……なんでかなぁ……」
なんで、こいつ、平然とボール持って振り返ってきてるんだろう?
「いや、まあ、お前が無事なら、それでいいんだけどさ。……取れたんだ。ボール」
「うむ。容易い」
「そうか。容易いのか……。すごいな……ほんと」
なんだろう、この気持ち。……取り越し……苦労?
アリスに関してはあれこれ考えて心配したりするのは意味ないのか……。
「よし。では、反撃だ」
アリスはそう言うと、ゴダイシンレッドを見据える。
「え、投げるの?」
「無論だ。投げるぞ」
「えぇ、いいんじゃないの、もう。あと10分くらいは持っといて。終わり際くらいに仕掛けるみたいな感じでさ」
ゴリラが話した戦いのルールは至って簡単だった。
時間は30分。ゴダイシンの攻撃に耐え、内野に俺たち3人が残る事ができたら、もしくは、ゴダイシンレッドにボールをぶち当てることができれば俺たちの勝ち。
あと、ハンデとして、開始から15分の間は内野のゴダイシンレッドと対面の外野の位置に居るゴダイシンブラックのみで攻撃も前後二方向の挟み撃ちしか行われない。
残り15分となった時点で、ゴダイシングリーンとホワイトとイエローが投入され、四方からの攻撃が開始される。
「貴様っ! そんな事をして何になる! 戦わねば勝つことなんぞできんだろうが!!」
「え、いや、できる。できるよっ。つうか、あんた、一番近いとこでおもいっきりルール聞いてたよねっ!?」
ゴリラの真ん前で何度も頷きながらすっごいルール聞いてたんだぞ!?
途中から由加と一緒に参加した俺でも理解してるのに、ほんとなんで!? 何聞いてたの!?
「馬鹿者! ちゃんと聞いてたわ! ゴダイシンレッドが去るか、我等三人が去るかの戦いだろう!」
「いや、違う違う違うっ! そんな過酷じゃ無いって! もっとマイルドだって!!」
「なにを、貴様っ! 貴様こそ違うだろうが! この戯けめっ!」
「わーお! 戯けって言っちゃったよ! いや、ちょっと待ってほんとに! ちょっと、おい、ゆかーー!!」
離れたところで猛然と鼻をかんでいる由加を呼び寄せるとルールを言わせた。
「ほらほらっ! やっぱ俺が合ってるじゃねえか!」
俺と由加のルールは一致していて、アリスの認識違いだった。
「間違ってるのはおまえ―――っぶるぁっ……!」
……だが殴られた。
「ぅぐぁっ……。……ぅっ……ぃやっぱりだよぅっ」
いや、もうなんか分かってた。こうなるのは……。
「ええっ、ちょっと先輩っ! 大丈夫ですかっ?」
勢いよく倒れた俺の側に屈んで心配そうに様子を窺ってくる由加はちゃんと仲間意識があり、この戦いも協力して乗り切ろうとしてくれている。
問題なのはやっぱり……確実に……。
「ふんっ。……馬鹿者めが」
自分が間違っていたのに拳を振るう。
さっきまで警護対象として扱っていた者を数分後には自らぶん殴るこいつだ。
「戦って勝つ道もありながら、制限時間を乗り切って勝つ方をすんなり選ぶだと? 笑わせるな貴様」
「ぉ、おいっ……」
あぁ……やめてくれ。ほんと、やめてくれ。
「ちょっと……」
そう思うが、まだ立ち上がることができない俺の前でアリスはボールを持った手を後ろへと下げる。
「私はそんな軟弱で卑怯な真似は絶対にせん。……向かい合う者は倒す―――」
やめてぇぇぇえええええええ。
心の中でなのか実際口から出ていたのかは分からないが、俺がそうおもいっきり叫んだ事など意味もなく。
「それだけだっ!」
アリスはゴダイシンレッドへとボールを投げた。
第二グラウンドドッジボールコート左側。
「ふぁっ……ぁ……」
暇や。
「ねむ……帰りたいな……」
自分から仕掛けてやってるわけやけど、このドッジボールほんまおもんないわ。
さっきから全っ然、ボールこぉへん。
『戦わねば勝つことなんぞできんだろうが!!』
『え、いや、できる。できるよっ。つうか、あんた、一番近いとこでおもいっきりルール聞いてたよねっ!?』
これも、鬼の力なんか知らんけど、豆粒くらいの遠さやのにアリスと百太郎の声が割と聞こえるし、なんて言ってるか聞き取れる。なんや、揉めてるみたいや。
「こんな時でも言い合いすんのか。アイツら……」
百太郎を庇って、今の鉄(ゴダイシンブラック)のボールを遅れ気味の体勢から受け止めたのは流石やとは思ったけど、やっぱりアリスはアリスなんやな。少し心変わりしたかと思ったけど、“今”百太郎と対決とかやらへんだけなんや。
『馬鹿者! ちゃんと聞いてたわ! ゴダイシンレッドが去るか、我等三人が去るかの戦いだろう!』
え……? 俺、そんな事言ったっけ?
いや、まあ、俺にボール当てても勝ちとは言ったけど、絶対じゃないぞ……?
『いや、違う違う違うっ! そんな過酷じゃ無いって! もっとマイルドだって!!』
ああ、やっぱそうやんな。百太郎はちゃんと理解して聞いてくれてたんや。
アリスが俺にボールを当てたら勝ち以降、聞いて無かっただけや。あの武闘派めが。ちゃんと聞けよ。
『なにを、貴様っ! 貴様こそ違うだろうが! この戯けめっ!』
うぁーお。戯けって言っちゃったよ。
どっちか言うと自分が戯けやのに、今に限っては戯けじゃない百太郎に戯けって言ったで。
『わーお! 戯けって言っちゃったよ! いや、ちょっと待ってほんとに! ちょっと、おい、ゆかーー!!』
つうか、同じ反応やん、百太郎。
いや、でも、そうなるわほんま。
「でも、あの由加って子も間違ってたり、権力に負けたりしたら、二対一で百太郎ぶん殴られんのかな」
酷い話や。どちらにせよ、俺が言ったルールはちゃうわけやしな。
『ほらほらっ! やっぱ俺が合ってるじゃねえか!』
合ってたんかいや。つうことは百太郎と由加対アリスの二対一か。
どうなんねやろ。
『間違ってるのはおまえ―――っぶるぁっ……!』
ええええええっ!? 殴られるぅっ!?
百太郎、首、グリィンなって倒れたでっ!?
「うせやろ……。結局正しかろうが間違ってようが殴られんねやろあれ……」
さっきまで守ってた人間よう殴るわ。ほんま酷い話や。
ジャイ⭕ンの劇場版と通常版行き交っとるやん。
『ふんっ。……馬鹿者めが』
間違ってないのにぶん殴られて、馬鹿まで言われるってもうある意味、トドメやな。
『戦って勝つ道もありながら、制限時間を乗り切って勝つ方をすんなり選ぶだと? 笑わせるな貴様』
まあ、アリスの性格からしたらそうやろうな。
なんならちょっと、そうなるとは思ってたわ。
『ちょっと……』
百太郎が止めても無駄や。
あいつは仕掛けてきよる。
『私はそんな軟弱で卑怯な真似は絶対にせん。……向かい合う者は倒す―――』
なんかかっこいいこと言うてるやん。
「ええで。……受けて立ったる」
『やめてぇぇぇえええええええ!!』
何叫んでんねん。女の子かよあいつ。
あの三人の中で一番女子ちゃうか。
『それだけだっ!』
うつ伏せに倒れた上体で手を伸ばして止めようとする百太郎を無視して、アリスは俺に向かってボールを投げてきよった。
「結構速いな」
ボールは一直線に土埃を上げて向かってくる。
俺らは鬼のチートを使ってる所詮紛い物やけど、アリスは正真正銘の白鬼の末裔。やっぱ流石や。
「へっ……」
でも、紛い物いうても、天才的などらさんが生み出した道具やし、力の元の鬼も王様級の奴なんや。
俺らも今のアリスには負けへんでっ。
「っしゃぁああああああああああああああ!!」
両足を力いっぱい踏みしめて、向かってきたボールを腹の位置で受け止める。
「ぁぁああああああああああああああああ!?」
っんんんんんんんんんんんん!? おかしい!?
なんやこれ、おかしい!!?
「なんでやねぇええええええええええええええええええん!!」
受け止めたのは受け止めたけど、踏ん張り無意味でボールに押されて後退してまう。
「ちょ、ちょぉおおおおっ……!」
止まらんっ。止まらんぞこれっ。
気抜いたら弾き飛ばされそうやっ。
「そんなんあかんっ……。こんなはよおわぁったらぁっ……!!」
あかんねやっ!
「絶対にぃぃいいいいいいいいいいいっ……!」
負けられんねやぁあああああああああああああああああああああ!!